肺疾患と亜鉛

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亜鉛探訪No.024

肺の健康と亜鉛

『亜鉛探訪024』へようこそ!

続いて、呼吸を司る肺とはどのような関係にあるのでしょう?肺疾患と亜鉛の関係について解説します。

1. 序論

私たちは普段、呼吸を当たり前のように行っていますが、その背後では肺の細胞や血管内皮が絶えず働き、酸素を取り込み、不要な二酸化炭素を排出するという重要な役割を果たしています。
この肺の健康維持に欠かせないのが、亜鉛というミネラルです。亜鉛は細胞の成長や免疫機能の調整に関与し、肺のバリア機能や炎症抑制にも重要な役割を果たしています。
本記事では、特に亜鉛依存性ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)の関与や、抗酸化作用を中心に、亜鉛と肺の健康について詳しく掘り下げます。

2. 亜鉛依存性ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)と肺機能

肺の血管を裏打ちする内皮細胞(EC)は、肺のバリア機能を維持する上で重要な役割を担っています。
しかし、炎症や有害物質の影響によってこのバリアが破壊されると、肺水腫が発生し、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を引き起こすことがあります。
近年、亜鉛依存性ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)の活動がこのバリア機能に影響を及ぼすことが明らかになりつつあります。HDACはクロマチン構造を変化させ、遺伝子の発現を調整することで、内皮細胞の強度や透過性を制御します。このため、亜鉛を適切に摂取することは、肺の血管機能を維持する上で重要な要素の一つと考えられています。

3. 亜鉛の抗酸化作用と肺の炎症抑制

私たちの肺は、常に外部からの酸素を取り入れる一方で、有害な活性酸素種(ROS)の影響を受けやすい臓器です。
過剰なROSは肺の細胞を傷つけ、炎症を引き起こすことで、COPD(慢性閉塞性肺疾患)や喘息などの呼吸器疾患を悪化させる要因となります。
亜鉛は、強力な抗酸化作用を持ち、酵素の活性化を通じてROSの過剰な生成を抑制する働きがあります。
また、炎症を抑えるサイトカインの調整にも関与し、肺の健康を維持するのに重要な役割を果たしています。適切な亜鉛摂取は、肺の酸化ストレスを軽減し、呼吸器系の疾患予防に貢献すると考えられています。

4. 亜鉛と肺疾患の関連性

近年の研究では、亜鉛の不足が肺疾患のリスクを高める可能性が指摘されています。
例えば、COPDの患者では、亜鉛の血中濃度が低下していることが報告されており、その結果、酸化ストレスが増加し、炎症反応が促進されると考えられています。
また、肺高血圧症の病態にも亜鉛が関与しており、亜鉛が不足すると血管内皮機能が低下し、血圧が上昇しやすくなる可能性があると示唆されています。さ
らに、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症例では、亜鉛濃度の低下が観察されており、亜鉛が免疫機能を調節する上で重要であることが明らかになっています。
肺疾患を予防し、症状を軽減するためには、日常的な亜鉛摂取が鍵となるかもしれません。

5. 適切な亜鉛摂取と注意点

亜鉛は私たちの体に必要不可欠なミネラルですが、適切な摂取量を守ることが重要です。
日本人の食事摂取基準によると、成人男性の推奨摂取量は11mg、成人女性は8mgとされています。
特に、魚介類(牡蠣、カニ)、肉類(牛肉、豚肉)、種実類(カボチャの種、ゴマ)などは亜鉛を多く含む食品として知られています。
一方で、過剰摂取には注意が必要です。亜鉛の過剰摂取は、銅の吸収を妨げ、免疫機能の低下を引き起こす可能性がありますので、健康診断で年1回は亜鉛や銅、鉄の血中濃度を測定するべきだと考えています。
バランスの良い食事を心がけることで、亜鉛の恩恵を最大限に活用し、肺の健康を守ることができるでしょう。

6. まとめ

亜鉛は、エピジェネティクスによる遺伝子発現の調整、抗酸化作用による炎症抑制、肺疾患のリスク低減など、呼吸器の健康維持に多面的に貢献するミネラルです。
特に、血管内皮のバリア機能を維持し、肺損傷を防ぐ役割は今後の研究においても注目されています。
しかし、亜鉛は過不足なく摂取することが重要であり、適切な食事やサプリメントの活用が推奨されます。
今後も、亜鉛と肺疾患の関係についての研究が進むことで、新たな治療戦略の開発につながることが期待されています。日々の食生活の中で、意識的に亜鉛を摂取し、健やかな呼吸を維持していきましょう。

参考文献

タイトル

肺内皮細胞の病態における亜鉛依存性ヒストン脱アセチル化酵素

文献

Biomolecules. 2024 Jan 23;14(2):140.

要約

血管内皮細胞(EC)は血管の内腔を覆い、血液と組織間の半選択的バリアとして機能する。このバリアが炎症や毒性因子によって損なわれると、急性肺損傷(ALI)や重症型である急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の原因となる。ECの機能は、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)によるエピジェネティックな制御を受けるが、その中でも亜鉛依存性HDACが最大のグループを占め、Zn²⁺によって活性化される。これらのHDACは、ヒストンのアセチル基を除去することでクロマチン構造を変化させ、遺伝子発現を調節するほか、細胞内の非ヒストンタンパク質も脱アセチル化する。近年、亜鉛依存性HDACの阻害が、内皮バリアの維持や肺損傷の予防に有望であることが注目されているが、個々のHDACサブタイプの役割は十分に解明されていない。本レビューでは、亜鉛依存性HDACが内皮機能や肺疾患に及ぼす影響、およびその阻害剤の治療的可能性について最新の知見をまとめる。

抄録

内皮細胞(EC)の単層は血管の内腔を覆っており、血液と間質腔との間に半選択的バリアーを提供している。 炎症性または毒性事象によって肺ECバリアが損なわれると、肺水腫が生じ、これは急性肺損傷(ALI)およびその重症型である急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の主要な特徴である。
ECの機能は、少なくとも部分的には、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)を介したエピジェネティックなメカニズムによって制御されている。 亜鉛依存性HDACは、HDACの中で最も大きなグループであり、Zn2+によって活性化される。
このHDACグループのメンバーは、主にヒストンからアセチル基を除去する際にクロマチンの構造を改変することによって、エピジェネティックな制御に関与している。
さらに、核外コンパートメントに存在するものも含め、多くの非ヒストンヒストンタンパク質を脱アセチル化することができる。
近年、亜鉛依存性HDACを阻害することによるECバリア保全の治療可能性が注目されている。
しかしながら、ECのバリア制御における特定のHDACサブタイプの役割については、依然として不明な点が多い。
本総説は、内皮機能障害とその関連疾患における亜鉛依存性HDACの役割について最新の情報を提供することを目的としている。 主に肺疾患に関連する内皮病態におけるHDACの生物学的貢献、シグナル伝達経路および転写の役割に広く焦点を当て、肺損傷予防のためのHDAC阻害剤の可能性について議論する。
複数のHDACと亜鉛の複雑な関係
肺と亜鉛

亜鉛依存性HDACが介在する主な内皮シグナル伝達経路。 HDAC1、HDAC3およびHDAC6はアポトーシスに関与する。 HDAC1、HDAC6およびHDAC8は血管緊張に関与する。 HDAC3とHDAC6は細胞の分化を制御する。 HDAC1から7は細胞増殖に関与する。 HDAC8、HDAC10、HDAC11を除く他の全ての亜鉛依存性HDACは血管新生を促進する。 HDAC1、HDAC2、HDAC3、HDAC5およびHDAC6はNO産生を制御する。 HDAC4とHDAC10を除けば、残りの亜鉛依存性HDACは炎症反応に関与している。 HDAC3から7とHDAC11は、細胞の完全性を制御する重要な役割を担っている。 HDAC2、HDAC3、HDAC6は酸化ストレスに寄与する。