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亜鉛探訪No.027 

脳疾患と亜鉛

『亜鉛探訪027』へようこそ!

さまざまな脳疾患にも亜鉛欠乏が関わっているようです。

1. はじめに

私たちの体にとって不可欠なミネラルの一つである亜鉛。免疫機能や皮膚の健康に関与するだけでなく、脳の働きにも重要な役割を果たしています。脳内の亜鉛濃度は血清の10倍にも達し、シナプス伝達や神経可塑性に関わっています。
最近の研究では、精神疾患と亜鉛の関係が注目されており、うつ病や認知症、統合失調症などの疾患との関連が示唆されています。本記事では、精神疾患と亜鉛の関係について詳しく探っていきます。

2. 精神疾患と亜鉛の関係

亜鉛は、脳内でシナプスの活動を調節し、神経細胞の成長やストレス応答にも影響を与えています。特に、グルタミン酸作動性神経伝達の調整に関わり、興奮性シグナルを適切に制御する役割を担っています。これが崩れると、神経の過剰興奮や炎症反応が生じ、うつ病や統合失調症などの症状を引き起こす可能性があります。

3. 疾患別にみる亜鉛の影響

うつ病

 うつ病患者の血清亜鉛濃度は低いことが多く、亜鉛の不足が症状を悪化させる可能性があります。亜鉛はストレス応答や神経可塑性に関与し、抗うつ薬と併用することで治療効果を高める可能性が示されています。

アルツハイマー病

 アルツハイマー病では、脳内の亜鉛バランスが崩れることが知られています。亜鉛がアミロイドβと結合することで凝集を促進する一方で、適切な濃度では神経細胞を保護する働きもあります。亜鉛の適切な管理が、認知機能の維持に役立つかもしれません。

パーキンソン病

 ドーパミン神経の変性が進むパーキンソン病では、亜鉛の不均衡が神経細胞の死に関与している可能性があります。亜鉛には酸化ストレスから細胞を守る働きもあり、適切な濃度を維持することが重要です。

統合失調症

 統合失調症の患者では、亜鉛の低下がグルタミン酸受容体の機能異常と関連していると考えられています。亜鉛補充が症状の改善に役立つかどうかは、今後の研究が求められます。

脳卒中

 脳卒中後には、神経細胞から亜鉛が大量に放出され、神経毒性を引き起こすことがあります。しかし、一方で亜鉛の抗酸化作用が神経保護に働く可能性もあり、そのバランスが重要です。

外傷性脳損傷(TBI)

 脳損傷後、亜鉛の恒常性が乱れると炎症反応や神経変性が進行しやすくなります。亜鉛補充が回復を促す可能性がありますが、過剰摂取には注意が必要です。

自閉スペクトラム症(ASD)

 ASDの子供では血清亜鉛レベルが低いことが報告されており、発達障害との関連が指摘されています。シナプス機能の発達に関与する亜鉛の役割が、今後の研究の焦点となっています。

4. 亜鉛補充は有効か?

亜鉛が精神疾患の治療に役立つ可能性がある一方で、その過剰摂取は逆効果となることもあります。例えば、過剰な亜鉛は銅の吸収を阻害し、神経系のバランスを崩す可能性があります。現在の研究では、疾患ごとに適切な亜鉛の摂取量を検討することが求められています。

5. おわりに

精神疾患と亜鉛の関係は、まだ完全には解明されていません。しかし、近年の研究により、亜鉛の恒常性が神経伝達や脳の健康にとって極めて重要であることが明らかになってきています。今後、亜鉛補充療法の可能性がさらに検討され、精神疾患の新たな治療法としての道が開かれるかもしれません。

参考文献2

タイトル 

亜鉛と中枢神経系疾患

文献

Nutrients. 2023 Apr 29;15(9):2140.

抄録

亜鉛(Zn2+)は、人体で2番目に多く必要な微量元素であり、細胞増殖、転写、アポトーシス、成長、免疫、創傷治癒など、多くの生理的プロセスにおいて重要な役割を果たしている。 多くの酵素や転写因子にとって必須の触媒イオンである。
Zn2+のホメオスタシスの維持は、Zn2+が豊富に分布し、シナプス前小胞に蓄積している中枢神経系にとっても不可欠である。 シナプスのZn2+は神経伝達に必要であり、神経発生、認知、記憶、学習に極めて重要な役割を果たしている。
新たなデータによると、Zn2+ホメオスタシスの破綻は、アルツハイマー病、うつ病、パーキンソン病、多発性硬化症、統合失調症、てんかん、外傷性脳損傷など、いくつかの中枢神経系疾患との関連が示唆されている。
ここでは、Zn2+とこれらの中枢神経系疾患との相関について概説した。 また、その潜在的メカニズムについても言及した。 この総説が、神経系障害の予防と治療のための新たな手がかりとなることを願っている。

疾患別要点

1. アルツハイマー病(AD)

  • 亜鉛はβ-アミロイド(Aβ)の凝集を促進し、Aβプラークの形成に関与。
  • 亜鉛の過剰または不足が、Aβの毒性、タウタンパク質の異常、神経炎症を引き起こす。
  • 亜鉛恒常性の調節が、ADの進行を抑える可能性。

2. パーキンソン病(PD)

  • 亜鉛はドーパミン神経伝達に関与し、ミトコンドリア機能や酸化ストレスの調節に重要。
  • PDでは、α-シヌクレインの凝集が問題であり、亜鉛はその形成を促進する可能性がある。
  • 亜鉛補充やキレート剤の利用が神経保護のターゲットとなる可能性。

3. うつ病

  • 亜鉛不足はうつ病患者でよく見られ、抗うつ薬の効果が減弱することが示唆されている。
  • 亜鉛は神経新生や抗酸化作用を介してストレス応答を調節。
  • 亜鉛補充が抗うつ効果を持つ可能性。

4. 統合失調症

  • 亜鉛はNMDA受容体の調節に関与し、グルタミン酸神経伝達の障害と関連。
  • 統合失調症患者では血中亜鉛濃度が低下していることが多い。
  • 亜鉛補充が治療の補助となる可能性。

5. てんかん

  • 亜鉛は興奮性シナプス伝達を調節し、GABA作動性ニューロンにも関与。
  • てんかん患者では亜鉛濃度の異常が観察され、発作の閾値に影響を与える。
  • 亜鉛補充またはキレートが発作の制御に有用な可能性。

6. 多発性硬化症(MS)

  • 亜鉛は免疫調節作用を持ち、T細胞の活性化や炎症反応に関与。
  • MS患者では亜鉛欠乏が報告されており、疾患の進行に影響する可能性。
  • 亜鉛補充が神経保護および免疫調節に寄与する可能性。

7. 外傷性脳損傷(TBI)

  • TBI後、亜鉛の恒常性が乱れ、神経炎症や酸化ストレスが増加。
  • 亜鉛補充が神経保護を促し、回復を促進する可能性。
  • しかし、過剰な亜鉛が二次的損傷を引き起こす可能性があるため、バランスが重要。

総括

亜鉛の恒常性の維持がCNS疾患の進行を抑える可能性があり、治療ターゲットとして注目されている。
亜鉛補充やキレート療法が疾患によっては有望な治療戦略となる可能性があるが、適切な用量やタイミングが重要。

参考文献1

タイトル 

脳疾患における亜鉛シグナル

文献

Int J Mol Sci. 2017 Nov 23;18(12):2506.

抄録

二価の陽イオンである亜鉛は、最適な細胞プロセスにとって不可欠な要件であり、300を超える酵素の機能に寄与し、細胞内シグナル伝達を制御し、中枢神経系における効率的なシナプス伝達に貢献している。
幅広い細胞内プロセスにおける亜鉛の重要な役割を考えると、その細胞内分布と局所組織レベル濃度は、主に亜鉛輸送体や亜鉛輸入タンパク質を含む一連のタンパク質を介して、厳密に制御され続けている。
これらの調節経路の機能喪失や、脳内の亜鉛ホメオスタシスの変化をもたらす食事の変化は、急性および慢性的に機能に影響を及ぼす無数の病態を引き起こす可能性がある。
本総説は、中枢神経系における亜鉛シグナルの役割を明らかにすることを目的とし、亜鉛シグナルが、加齢に伴う認知機能の低下、うつ病、アルツハイマー病、脳損傷後の予後不良など、様々な問題を引き起こしたり、悪化させたりする可能性がある。
脳疾患と亜鉛

脳疾患別要約

1. うつ病

  • うつ病患者では血清亜鉛濃度が低下していることが報告されている。
  • 亜鉛の不足は、抗うつ薬に対する抵抗性の要因となる可能性がある。
  • 亜鉛はNMDA受容体を介した神経伝達を調節し、神経可塑性やストレス応答に関与。
  • 亜鉛補充は、抗うつ薬と併用することで治療効果を高める可能性がある。

2. アルツハイマー病

  • アルツハイマー病患者の脳内では、亜鉛がアミロイドβと結合し、凝集を促進することが示唆されている。
  • 一方で、適切な亜鉛濃度はシナプスの機能維持や抗酸化作用を持つ。
  • ZnT3(亜鉛トランスポーター3)が低下すると、シナプス機能が損なわれ、認知機能の低下に寄与。
  • 亜鉛補充の効果は議論の余地があり、過剰摂取は逆に有害になる可能性もある。

3. パーキンソン病

  • パーキンソン病では、ドーパミン神経の変性に亜鉛の不均衡が関与している可能性がある。
  • α-シヌクレイン(パーキンソン病の特徴的なタンパク質)が亜鉛と結合し、異常な凝集を促進する。
  • しかし、亜鉛は酸化ストレスから神経を保護する役割も持ち、バランスが重要。

4. 統合失調症

  • 統合失調症患者では、亜鉛レベルの異常が指摘されている。
  • 亜鉛はNMDA受容体の調節に関与し、その異常がグルタミン酸作動性神経伝達の破綻を引き起こす可能性がある。
  • 低亜鉛状態は統合失調症の症状を悪化させる可能性があるが、補充療法の有効性についてはさらなる研究が必要。

5. 脳卒中

  • 脳虚血時に亜鉛が過剰に放出されると、神経細胞死を引き起こす。
  • 亜鉛がNMDA受容体を介した興奮毒性を増強する可能性がある。
  • 一方で、抗酸化作用による神経保護効果も示唆されており、治療戦略におけるバランスが鍵。

6. 外傷性脳損傷

  • 外傷後に亜鉛の恒常性が乱れると、炎症反応や神経変性が促進される。
  • 亜鉛補充が回復を促進する可能性があるが、過剰摂取は神経毒性を引き起こす可能性もある。

7. 自閉スペクトラム症

  • ASDの子供では、血清亜鉛レベルが低下しているとの報告がある。
  • 亜鉛はシナプス機能の発達や神経伝達に関与し、その不足が発達障害に関連している可能性。
  • 亜鉛サプリメントの有効性については議論が続いている。