亜鉛探訪No.037
皮膚と亜鉛その2
『亜鉛探訪037』へようこそ!
1. はじめに – 肌と栄養の関係
「最近、肌の調子が悪い」「かゆみや乾燥がなかなか治らない」そんなお悩みをお持ちの方に知っていただきたいのが、栄養と皮膚の深い関係です。実は皮膚の健康は、スキンケアだけでなく“体の中からのケア”も大切。その中でも特に重要なミネラルのひとつが亜鉛(Zn)です。 |
2. 亜鉛とは? – 必須ミネラルの基礎知識
亜鉛は、体内でおよそ2,000種類以上の酵素の働きを支えている必須微量元素です。特に細胞の新陳代謝、免疫反応、抗酸化、防御機能などに関わりが深く、皮膚や髪、爪の健康とも密接な関係があります。体内で作り出すことができないため、毎日の食事からの摂取が欠かせません。 |
3. 皮膚における亜鉛の役割
皮膚は、外界と体内を隔てる最大の臓器です。亜鉛はこの皮膚の中で、次のような働きをしています: |
- 角化細胞の増殖・分化を助ける
- 皮膚バリア機能の維持に貢献
- 炎症を抑える抗酸化作用・免疫調整作用
- 傷を治す創傷治癒の促進
特に表皮では、日々行われる細胞の生まれ変わりに亜鉛が不可欠であり、真皮や皮下組織でも修復や免疫のバランスに深く関わっています。 |
4. 亜鉛不足と皮膚のトラブル
体内の亜鉛が不足すると、次のような皮膚トラブルが起こることがあります: |
- アトピー性皮膚炎:バリア機能が低下し、炎症が起こりやすくなる
- にきび(尋常性ざ瘡):皮脂分泌のコントロールが乱れ、炎症が長引く
- 湿疹や乾燥肌:皮膚の再生がうまくいかず、慢性化しやすい
- 傷の治癒が遅い:細胞の再生能力が落ちる
また、亜鉛が関係する皮膚疾患として「腸性肢端皮膚炎」や「結合組織型エーラス・ダンロス症候群」なども知られています。 |
5. どんな人が不足しやすい?
- 偏食がちな方(特に肉や魚をあまり食べない)
- 妊娠中・授乳中の女性(需要増加)
- 高齢者(吸収率が低下)
- 胃腸障害のある方(吸収不良)
- 慢性的な皮膚炎がある方(消耗増加)
6. 皮膚のための亜鉛補給方法
◎ 食事から摂る亜鉛
代表的な食材には、牡蠣・牛肉・レバー・卵・ナッツ類などがあります。 |
◎ サプリメントで補う
医療用・市販品ともに種類が豊富です。吸収の良いもの、胃に優しいものなど、目的に応じて使い分けましょう。 |
◎ 血液検査で状態をチェック
皮膚の不調が長引いている場合は、血中亜鉛濃度を測定することで不足の有無を客観的に把握できます。 |
7. 当院での取り組み
当院では、慢性皮膚疾患を抱える方に対して亜鉛の重要性を重視しています。血液検査により亜鉛の状態を把握し、必要に応じて栄養指導やサプリメントのご提案を行います。外側からの治療だけでなく、内側からのケアを通じて、より本質的な皮膚改善を目指しています。 |
8. まとめとご案内
肌の健康は、外からのケアと同じくらい、「内側からの栄養」が大切です。その中心にあるのが、ミネラルの王様ともいえる亜鉛。皮膚のバリア、炎症、再生に関わるこの栄養素を、ぜひこの機会に見直してみませんか? |
💬 よくあるご質問(Q&A)
❓Q1. 皮膚が弱いのは、亜鉛不足のせいですか?
✅A1. 皮膚のバリア機能が弱くなる原因の一つに、亜鉛不足が関与していることがあります。亜鉛は角化細胞の再生やバリア維持に欠かせないため、不足すると乾燥しやすくなったり、かゆみや湿疹が出やすくなったりします。 |
❓Q2. 食事でどれくらい亜鉛をとればいいのですか?
✅A2. 成人の1日あたりの推奨摂取量は、厚生労働省から男性11mg、女性8mg程度とされています。牡蠣には非常に多くの亜鉛が含まれますが、毎日食べるのは難しいため、肉や卵、ナッツなども上手に取り入れましょう。 |
❓Q3. サプリメントで補っても大丈夫ですか?
✅A3. はい、食事で十分な量がとれない場合は、サプリメントで補うのも一つの方法です。ただし、過剰摂取には注意が必要で、長期間50mg/日を超える摂取は銅不足などを引き起こす可能性もあります。ご自身の状態を把握するために、定期的な血液検査をおすすめします。 |
❓Q4. 船橋ゆーかりクリニックの血液検査で亜鉛のことも調べられますか?
✅A4. はい、当院では採血によって血清亜鉛濃度を測定しています。その他にも、銅・鉄・フェリチン・ビタミンB群など、肌の健康に関わる栄養素を包括的に評価できます。血液検査の結果から亜鉛の血中濃度は約80%の方で低下(不足・欠乏)していますので、実際に内服する亜鉛サプリメントの1日必要量は増えています。 |
❓Q5. 子どもや高齢者も亜鉛不足になりますか?
✅A5. なります。小児では偏食や発育期の需要増加、高齢者では吸収力の低下や食事量の減少によって、年齢を問わず亜鉛不足は起こり得ます。気になる症状(いぼが多い、口内炎が多い、傷が治りにくい、味覚異常など)があれば一度ご相談ください。 |
参考文献
タイトル
文献
Int J Mol Sci. 2022 Dec 18;23(24):16165. |
抄録
亜鉛は人体にとって重要な微量ミネラルであり、健康な状態を維持するためには毎日の摂取が必要である。 過去数十年にわたり、亜鉛は創傷治癒や抗菌作用があることから、様々な皮膚疾患に対する局所療法や全身療法に用いられてきた。 |
亜鉛トランスポーターは、真皮層内の亜鉛ホメオスタシスを制御することにより、皮膚表皮系の完全性を維持する上で重要な役割を果たしている。 亜鉛輸送体タンパク質の変異や機能異常は、脊椎性異形成性エーラス・ダンロス症候群(SCD-EDS)や腸性肢端皮膚炎(AE)のような疾患の発症につながる可能性があり、放置すれば致命的となる。 |
この総説では、皮膚の層、各層における亜鉛と亜鉛トランスポーターの重要性、亜鉛欠乏によって引き起こされる様々な皮膚障害、さらに様々な皮膚障害の治療や皮膚の保護に用いられる亜鉛含有化合物について述べる。 |
炎症性皮膚疾患における亜鉛の役割
1. アトピー性皮膚炎(Atopic Dermatitis, AD)
特徴的な症状:皮膚バリア機能の低下、炎症、かゆみ、慢性再発性の皮疹。 |
亜鉛との関連:AD患者は血中亜鉛濃度が健常者に比べて低いとする報告がある。 |
亜鉛はバリア機能維持に不可欠であり、角化細胞の増殖・分化、抗酸化ストレスへの防御にも関与。T細胞応答やIL-2産生、炎症性サイトカインの抑制を通じて、免疫応答の制御に寄与。 |
ZIP2トランスポーターの発現減少が皮膚バリア機能の低下と関連する可能性が示唆されている。 |
臨床的応用:経口亜鉛補充がADの症状を軽減する可能性があるが、研究結果にはばらつきあり。外用亜鉛(亜鉛含有クリーム)は抗炎症作用と皮膚の保護に役立つ。 |
2. 尋常性ざ瘡(Acne Vulgaris)
特徴的な病態:皮脂腺の過剰分泌、毛包の角化、アクネ菌(C. acnes)の増殖、炎症。 |
亜鉛との関連:ざ瘡患者においても血清亜鉛濃度の低下が報告されている。亜鉛は5α-リダクターゼの抑制作用を持ち、皮脂分泌を抑える可能性あり。抗炎症作用により、毛包周囲の炎症反応を軽減。免疫調整によりアクネ菌への過剰反応を抑制。また、亜鉛はC. acnes に対して直接的な抗菌作用も持つ。 |
治療としての使用:経口亜鉛補充(硫酸亜鉛など):軽度〜中等度のざ瘡に効果報告あり。外用薬(亜鉛ピリチオンや亜鉛酸化物):抗菌・抗炎症のダブル作用で炎症性ざ瘡を改善。 |
共通のメカニズム
どちらの疾患にも共通するのは、炎症と免疫バランスの乱れ。 |
亜鉛は NF-κB経路の抑制や 抗酸化防御(SOD活性の維持) を通じて、これらを緩和する可能性がある。 |