亜鉛探訪No.041
関節リウマチと亜鉛
『亜鉛探訪041』へようこそ!
1. はじめに
要点 | 関節リウマチは、免疫が誤って自分自身の関節を攻撃してしまう「自己免疫疾患」です。手指の関節に腫れや痛みが起こり、進行すると関節の変形や破壊を引き起こします。 |
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2. 自己免疫とタンパク質変性
要点 | 本来、体を守る免疫は「自分」と「異物」を正確に識別しますが、関節リウマチでは、自分のIgGという抗体に対して、別の抗体(IgM型リウマチ因子)が作られてしまいます。 |
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3. PAD酵素とカルシウム
要点 | シトルリン化を引き起こすのはPAD(Peptidyl Arginine Deiminase)という酵素です。PADはカルシウムイオンが存在すると活性化され、関節の炎症や壊死でカルシウムが放出されると、その作用が一気に高まります。 |
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4. チオシアン酸・尿素・イソシアン酸
要点 | 喫煙や腎機能の低下によって、体内にチオシアン酸や尿素が増えると、そこから「イソシアン酸」という化学種が発生します。 |
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5. 亜鉛の役割
要点 | 亜鉛には、免疫バランスを整え、炎症や酸化ストレスを抑える多彩な働きがあります。NF-κBのような炎症因子の暴走を抑え、関節内の軟骨細胞や骨細胞の壊死を防ぐことで、カルシウムの放出やPAD活性の誘導も間接的に抑えることが期待されています。 |
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6. 研究と臨床から
要点 | 関節リウマチの患者さんでは、健常人に比べて血清亜鉛濃度が低いという報告が複数あります。慢性炎症によって肝臓に亜鉛が取り込まれやすくなり、血中の利用可能な亜鉛が不足してしまうのです。 |
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7. まとめ
要点 | リウマチは、自己免疫の誤作動による“自己との戦い”とも言えます。そこには、タンパク質の微細な化学修飾と、それを取り巻くミネラルバランスが深く関わっています。 |
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参考文献
題名 | 変形性関節症と関節リウマチの病因と病態における亜鉛とカドミウム |
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文献 | Nutrients. 2020 Dec 26;13(1):53. |
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要約 | 亜鉛(Zn)とカドミウム(Cd)は生体内で逆の役割を持つことが多く、亜鉛は抗酸化・免疫調整に働くのに対し、カドミウムは炎症誘導や毒性を持つ。自己免疫疾患においてこれらの微量元素のバランスは、発症や重症度に関係している可能性がある。 |
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要約 | 亜鉛は300以上の酵素に関与し、細胞の分化・増殖・アポトーシスに重要。特にT細胞分化(Th1/Th2バランス)や抗炎症サイトカイン産生に深く関わる。免疫系においては、IL-2やIFN-γの発現促進と炎症性サイトカイン(IL-1, IL-6, TNF-α)の抑制が見られる。 |
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要約 | カドミウムは亜鉛と似たイオン構造を持ち、亜鉛の輸送体(特にZIP8)を利用して細胞内に取り込まれる。これにより本来の亜鉛の生理的作用が阻害され、慢性炎症や自己抗体産生に寄与する。喫煙や工業排煙などが主な曝露源であり、RA・SLE・自己免疫性肝炎との関連が報告されている。 |
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要約 | 関節リウマチ患者では、血清亜鉛濃度の低下とカドミウムの上昇が見られる例が多く報告されている。これはZIP8の発現増加(炎症誘導)と関係し、滑膜マクロファージでの炎症反応や結節形成に関与。RAの病態形成には、**カドミウム暴露+亜鉛欠乏という“二重の打撃”**が関わっている可能性がある。 |
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要約 | いくつかの研究で、RA患者に亜鉛を補給したところ、CRPやIL-6、疼痛スコアが改善した報告がある。ただし、過剰な亜鉛はIL-1βの産生を促進する可能性があり、免疫活性を過剰にするリスクも。適正な補充量と、血中濃度のモニタリングが重要とされる。 |
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まとめ | 自己免疫疾患、とくに関節リウマチにおいて、亜鉛とカドミウムのバランスが発症・進行に影響している。将来的には、血中Zn/Cd比を用いた予測モデルや、個別化栄養介入が可能となるかもしれない。栄養・環境・遺伝要因の相互作用を統合的に理解することが鍵である。 |
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抄録 | 変形性関節症(OA)と関節リウマチ(RA)は異なる病因を持つ炎症性関節疾患であるが、どちらも関節に障害をもたらす。 栄養学的に必須な金属である亜鉛(Zn2+)と非必須金属であるカドミウム(Cd2+)は、免疫系、炎症、代謝のエフェクターとして、これらの関節炎疾患に関与している。 どちらの金属イオンも生物学的には酸化還元不活性であるにもかかわらず、酸化還元バランスに影響を与える。 |
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