アトピー性皮膚炎と亜鉛

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亜鉛探訪No.032

アトピー性皮膚炎と亜鉛

『亜鉛探訪032』へようこそ!

ついに、亜鉛がアトピー性皮膚炎を改善するメカニズムが解明されました!

1. アトピー性皮膚炎(AD)とは?

ADは、かゆみを伴う慢性的な皮膚炎で、皮膚のバリア機能が弱くなり、炎症が起こる病気です。

2. 亜鉛とADの関係

ADの患者さんは血液中の亜鉛の量が少ないことがわかっています。亜鉛は皮膚を健康に保つために重要な栄養素です。

3. CXCL10という物質が炎症を悪化させる

ADの皮膚では「CXCL10」という物質が多く作られ、それが免疫細胞(CD8+ T細胞)を引き寄せて炎症をひどくします。

4. 亜鉛グルコン酸がCXCL10を抑える!

研究によると、「亜鉛グルコン酸」を使うと、皮膚の細胞がCXCL10をあまり作らなくなり、炎症がやわらぐことがわかりました。

5. どうして亜鉛で炎症が抑えられるの?

亜鉛グルコン酸は「PPARα」というたんぱく質を活性化し、それが「STAT1」という炎症を引き起こす物質を弱めることで、CXCL10の量を減らします。

6. 動物実験での結果

アトピー性皮膚炎のマウスに亜鉛グルコン酸を使うと、かゆみが減り、皮膚の厚みが元に戻り、炎症が改善することが確認されました。

7. 亜鉛はADの治療に使えるのでしょうか?

この研究結果から、亜鉛を補うことでADの症状が軽くなる可能性があると考えられます。ただし、ヒトでどのくらいの量を摂取すればよいのか、長期的な影響はどうなのか、今後の研究が必要です。

まとめ

  • ADの患者さんは亜鉛が不足しがち
  • CXCL10が炎症を悪化させるが、亜鉛がその量を減らす
  • 亜鉛グルコン酸がアトピー性皮膚炎の新しい治療法になるかもしれない!

参考文献1

タイトル 

グルコン酸亜鉛はPPARα活性化を介してケラチノサイトのCXCL10放出を調節することによりアトピー性皮膚炎を改善する

文献

Biomed Pharmacother. 2024 Aug:177:117129.

抄録

アトピー性皮膚炎(AD)は、免疫因子が関与する複雑な原因を持つ慢性炎症性皮膚疾患である。 免疫系機能をサポートする必須微量元素の存在は、この疾患の発症に影響を及ぼす可能性がある。
本研究では、血清微量元素がアトピー性皮膚炎の発症にどのような影響を及ぼすかを調べた。
AD患者と対照被験者の血清微量元素を分析したところ、AD患者では亜鉛濃度が顕著に低いことが観察された。
AD皮膚のゲノム解析から、特異的な遺伝子発現パターンが明らかになり、特に表皮におけるCXCL10の発現が増加した。 AD皮膚病変におけるCXCL10レベルの上昇は、血清亜鉛レベルの低下と相関することがわかった。
グルコン酸亜鉛で処理すると、走化性反応とCXCL10の放出が減少したことから、ADにおけるケラチノサイトのCXCL10発現を制御する可能性が示唆された。 この背景には、PPARαを活性化することによるSTATリン酸化のダウンレギュレーションというメカニズムが関与している。
AD様皮膚炎モデルマウスにおいて、グルコン酸亜鉛療法は血清IgE値を低下させ、皮膚病変の重症度を緩和し、皮膚の厚さを減少させ、CXCL10発現を低下させた。
これらの知見は、グルコン酸亜鉛が、PPARαを活性化し、STATシグナル伝達を阻害し、CXCL10放出を減少させることにより、ケラチノサイトの炎症を抑制できることを示しており、ADの治療標的としての可能性を強調するものである。
解説図
アトピー性皮膚炎と亜鉛
アトピー性皮膚炎を模式的に示す。 血清中の亜鉛のアップレギュレーションはPPARαのアップレギュレーションにつながり、同時にSTATのリン酸化レベルをダウンレギュレーションし、ケラチノサイトにおけるCXCL10の分泌を減少させ、それによってCD8+ T細胞の表皮へのリクルートを減少させ、最終的に皮膚病変における炎症反応を緩和する。

アトピー性皮膚炎と亜鉛:CXCL10制御を介した炎症緩和の可能性

1. はじめに

アトピー性皮膚炎(Atopic Dermatitis: AD)は、慢性的な炎症性皮膚疾患であり、皮膚バリア機能の破綻と免疫異常が複雑に絡み合って発症する。近年、亜鉛が皮膚の健康や免疫調節において重要な役割を果たすことが明らかになり、ADの発症や進行に亜鉛の関与が示唆されている。
本稿では、亜鉛とADの関連性に焦点を当て、特にCXCL10の発現制御を介した亜鉛の抗炎症作用について考察する。最新の研究によると、亜鉛グルコン酸がPPARα(ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体α)を活性化することで、STATシグナルを抑制し、CXCL10の分泌を減少させることが明らかとなった。この作用機序を中心に、AD治療における亜鉛の可能性を検討する。

2. アトピー性皮膚炎の病態とCXCL10の役割

ADの病態には、皮膚バリアの破綻、免疫異常、炎症性メディエーターの増加が関与する。特に、**CXCL10(C-X-C motif chemokine ligand 10)**はAD病変部において高発現しており、炎症の増悪に寄与することが示されている。

(1) CXCL10の免疫調節機能

CXCL10は、CD8+ T細胞を炎症部位にリクルートする役割を持つ。
その結果、ケラチノサイト(皮膚の主要細胞)のアポトーシスが誘導され、**表皮のスポンギオーシス(海綿状変化)**が生じる。
AD患者の皮膚では、CXCL10の発現が顕著に上昇しており、炎症を促進する重要な因子であることが確認されている。

(2) AD患者の血清亜鉛レベル

AD患者の血清亜鉛濃度は、健常者と比較して有意に低いことが報告されている。
本研究では、AD患者の血清亜鉛濃度が4.02 ± 0.87 mg/Lであったのに対し、健常者では5.99 ± 0.98 mg/Lであり、統計的に有意な差(p < 0.0001)が確認された。

3. 亜鉛グルコン酸によるCXCL10制御と抗炎症作用

近年の研究により、亜鉛グルコン酸がADの病態改善に有効であることが示唆されている。その作用機序として、PPARα活性化によるCXCL10発現の抑制が重要である。
(1) PPARα活性化とCXCL10発現抑制
亜鉛グルコン酸はPPARαを活性化し、STAT1のリン酸化(p-STAT1)を抑制することで、CXCL10の発現を低下させる。
**PPARαの発現上昇(p < 0.0001)**と、**CXCL10のmRNA発現およびタンパク質レベルでの減少(p < 0.05)**が確認された。
PPARα阻害剤(GW6471)を投与すると、CXCL10発現抑制効果が消失することから、PPARαがCXCL10制御に関与していることが示された。
(2) ケラチノサイトにおけるCXCL10発現の抑制
ケラチノサイトに亜鉛グルコン酸(10mM)を投与したところ、CXCL10の分泌が有意に低下した(p < 0.001)。
CXCL10の低下により、CD8+ T細胞の浸潤が抑制され、炎症の軽減が期待できる。

4. 動物モデルにおける亜鉛グルコン酸の治療効果

ADモデルマウスを用いた実験では、亜鉛グルコン酸が炎症抑制と皮膚バリア改善に寄与することが示唆された。
(1) IgE値の低下
ADモデルマウスの血清IgE値は**対照群と比較して有意に上昇(p < 0.0001)**していたが、**亜鉛グルコン酸投与によりIgE値が低下(p < 0.001)**した。
(2) 皮膚病変の改善
ADモデルマウスにおける皮膚肥厚の減少(p < 0.01)、表皮の炎症軽減が確認された。
CXCL10の免疫組織染色において、ADモデルマウスでは高発現していたCXCL10が、亜鉛グルコン酸投与により有意に低下していた(p < 0.05)。

5. 考察

本研究の結果から、亜鉛グルコン酸はADの炎症を緩和し、皮膚バリアを改善する可能性があることが示唆された。その作用機序として、PPARαを介したSTAT1リン酸化の抑制、CXCL10発現の低下が関与している。
(1) 亜鉛のAD治療への応用
亜鉛欠乏がADの発症や増悪に関与している可能性があり、適切な亜鉛補充がADの補助療法として有効と考えられる。亜鉛サプリメントの摂取や、局所塗布による補充が検討されている。
(2) 今後の課題
ヒトを対象とした大規模臨床試験が必要であり、亜鉛グルコン酸の最適な投与量や長期的な安全性を評価することが求められる。
亜鉛とPPARαシグナルの詳細なメカニズムを解明し、AD治療への応用を進める必要がある。

6. 結論

AD患者では血清亜鉛濃度が低下していることが確認された。
CXCL10がADの炎症に関与し、亜鉛グルコン酸がその発現を抑制することが示唆された。
亜鉛グルコン酸はPPARαを活性化し、STAT1シグナルを抑制することでCXCL10の分泌を減少させ、ADの症状を改善する可能性がある。
亜鉛補充療法は、ADの新たな治療戦略として有望である。