亜鉛探訪No.039
子宮内膜症と亜鉛
『亜鉛探訪039』へようこそ!
【1】子宮内膜症とは?
子宮内膜症は、子宮の内側にあるべき内膜組織が、卵巣や骨盤内など子宮の外に発生・増殖してしまう疾患です。20〜40代の女性に多く、不妊症や月経困難症の原因となることもあります。この病気の背景には「慢性炎症」や「免疫機能の異常」があることが知られていますが、最近では「栄養素との関係」も注目されています。 |
【2】注目される亜鉛の役割
亜鉛は、細胞の修復、免疫の調整、抗酸化作用など、私たちの身体を守るために欠かせないミネラルです。慢性的な炎症があると、活性酸素(ROS)が体内で増えます。これに対抗する抗酸化作用を支えるのが、実は亜鉛です。 |
【3】子宮内膜症と亜鉛の関係
最近の研究によると、子宮内膜症の女性では血中の亜鉛濃度が有意に低いことが明らかになりました。この研究は、複数の論文をまとめて分析する「システマティックレビューとメタアナリシス」と呼ばれる手法で、科学的信頼性が高い論文です。 |
【4】なぜ亜鉛が減るの?
子宮内膜症の方では、以下のような理由で亜鉛が不足しやすくなると考えられています: |
- 炎症による亜鉛消費の増加
- 栄養吸収の不均衡
- 慢性的なストレスや疲労
- 食事からの摂取不足
【5】今後の展望:亜鉛を補うと改善する?
今のところ、亜鉛を補うことで子宮内膜症が改善するかどうかは、まだはっきりしていません。しかし、体内の亜鉛バランスを整えることは、炎症を抑え、免疫を整えることにつながるため、将来の治療の一つとして期待されています。 |
【6】当院での取り組み
当院では、婦人科疾患に関連する栄養状態の評価として、血液検査で亜鉛を含めたミネラルバランスを確認することが可能です。「なんとなく疲れやすい」「生理がつらい」「肌や髪が気になる」といった症状がある方も、体の内側の栄養バランスに目を向けてみませんか? |
参考文献2
タイトル
食事からの亜鉛摂取と子宮内膜症リスクとの関連を探る:アメリカ人女性の横断的分析からの考察 |
文献
BMC Public Health. 2024 Oct 23;24(1):2935. |
抄録
背景
子宮内膜症は、遺伝的、免疫的、炎症性、多因子性の病因を持つ複雑な疾患である。 必須微量元素である亜鉛は、様々な生理学的プロセスにおいて重要な役割を果たしている。 亜鉛の調節異常や欠乏は、ヒトの生理機能に異常をもたらす可能性がある。 しかし、食事性亜鉛と子宮内膜症との関連はあいまいなままである。 本研究は、食事からの亜鉛摂取と子宮内膜症との関連を調査することを目的とした。 |
方法
National Health and Nutrition Examination Surveyの横断データを用いて、1999年から2006年の20~54歳のアメリカ人女性の情報を分析した。 関連する共変量を調整した後、多変量ロジスティック回帰分析を用いて相関を評価した。 |
結果
合計4315人の女性が研究に組み入れられた。 多変量ロジスティック回帰モデルでは、交絡変数をコントロールした後でも、食事からの亜鉛摂取と子宮内膜症リスクとの間に正の相関があることが明らかになった。 亜鉛摂取量が少ない人(≦8mg/日)と比較して、8~14mg/日群および>14mg/日群における食事性亜鉛摂取量と子宮内膜症の調整オッズ比(OR)値は、それぞれ1.19(95%CI:0.92-1.54、p=0.189)および1.60(95%CI:1.12-2.27、p=0.009)であった。 |
結論
我々の知見は、食事からの亜鉛摂取と子宮内膜症の有病率との間に正の相関があることを示唆している。 しかし、この関連をよりよく理解し、子宮内膜症における食事性亜鉛の潜在的役割を探るためには、さらなる調査が必要である。 |
参考文献1
タイトル
文献
Clin Exp Obstet Gynecol. 2014;41(5):541-6. |
抄録
研究の目的
本研究の目的は、子宮内膜症病変の発症と持続の背後にある複雑な発症過程における亜鉛の関与の可能性を評価することである。 子宮内膜症に罹患した患者グループと健常患者グループとの血清亜鉛レベルを調査すること。 |
材料と方法
組織診断で骨盤内子宮内膜症が発見された患者42名と健常患者44名の計86名の女性を対象とした。 著者らは全患者の血清亜鉛濃度を測定した。 結果 子宮内膜症患者群の血清亜鉛濃度は1010±59.24μg/lであった。 観察群の血清亜鉛濃度は1294±62.22μg/lであった。 |
結論
この結果は、子宮内膜症女性の血清亜鉛濃度が低下していることを示し、この微量元素がこの疾患の多因子病態に影響を及ぼす可能性があることを裏付けるものと思われる。 実のところ、亜鉛は多くの生物学的プロセスを阻害し、中でも炎症と免疫は病変発生の基盤となっているようである。 従って、著者らは、この仮説が妥当であるかどうかを判断するためには、より多くの注意を払い、さらなる調査が必要であると考えている。 この結果が確認されれば、男性不妊症の発症と睾丸の発達における亜鉛の役割も考慮に入れつつ、子宮内膜症の治療法として将来の展望が開けることになる。 実際、亜鉛は、子宮内膜症のリスクの高い女性を検出するためのマーカーとして、また、このような女性がしばしば苦しむ不妊症の新しい治療法を開発するためのマーカーとして使用される可能性がある。 |